ベトナム商工省(工商部)機関紙「バオ・コントゥオン」オンライン、2025年5月5日、記者:グエン・ハイン(阮行)
Giá ca cao tăng mạnh: Cảnh báo tăng nóng diện tích trồng
世界のカカオ市場は激しい変動の只中にある。ベトナムのカカオ生豆価格も1kgあたり14,000~16,000ドン、発酵乾燥豆価格は1kgあたり220,000~260,000ドンに達し、昨年の同時期の3~5倍、2022年の4~5倍へ上昇している。しかし、カカオは大規模で長期的な投資と体系的な技術を必要とする産業作物であり、自発的・無計画な開発モデルには適していない。
2022年と比べ、カカオ発酵乾燥豆価格が4〜5倍へ上昇していることは、2012年以来、10年以上も価格低迷に苦しんでいたカカオ農家にとって、栽培面積再拡大の好機である。しかし、この好機の背後には大きな課題がある。カカオ栽培面積の急拡大は、業界の持続可能な発展を脅かす。とはいえ、現在のカカオ供給量不足による急激なカカオ価格上昇もまた、カカオ加工産業に大きな影響を及ぼしている。

https://baochinhphu.vn/thi-truong-ca-cao-the-gioi-dang-tao-nen-buoc-ngoat-moi-102240229144409049.htm



カカオ価格が急騰、過去最高額を記録
長い間、ベトナム国内のカカオ生豆の価格は、1kgあたり5,000~6,000ドン(約20セント)で低迷していたが、2024年の最後の数か月間に一気に12,000ドン(約46セント)/kgに上昇した。現在のカカオ価格は生豆で14,000〜16,000ドン(約62セント)/kg、発酵乾燥豆で220,000〜230,000ドン(約9米ドル)/kg、一部の地域では260,000ドン(約10ドル)/kgに達し、昨年2024年の同時期の3倍、2022年の4-5倍に上昇して、高止まりにある。農家はいまも収穫季にあり、この価格であれば、カカオ栽培面積1ヘクタールあたり、農家は平均4億~4億5千万ドン(約1万7,000米ドル)の収入を得ることができる。農家にとって、これは良い兆候であり、カカオツリーは大きな経済的可能性をもち、人々の生活を大幅に改善することに貢献しているといえる。気候変動、旱魃(かんばつ)、害虫が世界のカカオ生産に大きな影響を与えており、需要に比べて約60万トンの不足が生じている(訳者注:不足量60万トンという数字は、英/イギリスに本部を置く国際グリーンボンド基準策定 を業務とする非政府組織(NGO)「気候債券イニシアチブ」(CBI, 26 March 2025)の報告書「欧州市場におけるカカオ需要」に基づく。なお、国際カカオ機関(ICCO)の2024年2月発表では世界の需給バランスを37万4,000トンの供給不足と予測したが、2月以降も世界の磨砕加工速度は落ちることなく、磨砕量が増加したため、不足がさらに悪化し、2024年6月発表で供給不足を43万9,000トンに上方修正していた。JETRO, 2024.06.17)。特に、世界のカカオの約70%を供給する西アフリカ・コートジボワール(象牙海岸)とガーナ(旧黄金海岸)からの供給が不足している。さらに、買手らが抱く不足への懸念により価格は歴史的水準まで押し上げられた。


カカオ価格の高騰は農家にとって「絶好の」チャンスを生み出すが、生産、購買、加工、流通を担う合作社(協同組合)にとって大きな課題も突きつけている。カカオ価格が高止まりしているため、合作社は買取りのために多額の資金を必要としている。現状が続けば、資金調達は極めて困難となり、合作社の事業運営は立ち行かなくなる。くわえて、ベトナムのカカオ産地の生産量は依然として限られており、また買取り人らが買い占めているために、価格が高騰し、激しい競争が生じている。カカオはチョコレート製造業にとっての産業原料作物である。生産、購買、加工、流通を担う合作社群が影響を受けているだけでなく、この製品を生産、取引、輸出する企業群もまた大きな困難に直面している。

「バオ・コントゥオン」記者の取材に応じ、ミス・エデ商標のチョコレートを製造するエデ・ファーム(エデ農寨役務商売有限責任公司)代表ホアン・ザイン・ヒュウ氏はいう:
「タイグエン(西原=中部高原)にある弊社工場は、国際的な持続可能農業基準を満たした観光農地で生産されたカカオ豆だけを使用する、ほとんど唯一の企業と自負する。しかし、産業原料作物としてのカカオ価格の高騰とその長期化は、弊社の商標「ミス・エデ」を含むチョコレート製造、カカオ加工企業の事業運営に深刻な影響を与えている。その理由は、産業作物価格の上昇により完成品の小売価格が 4 ~ 5 倍に上昇することはーが、消費者市場では受け入れられないからである。通常は 、15% を超えない値上げしか、市場では受け入れられない。このため、弊社のような中小製造企業は、低価格で十分な原料の在庫を保有できなくなった場合、作れば作るほど、売れば売るほど赤字になり、多額の累積損失の危機に直面することになる。カカオ価格の急騰は農家にとって大きな喜びだが、弊社をはじめ、多くの生産、加工、輸出企業にとっては懸念材料となっている。現在の傾向として、チョコレート製造業者の中には、生産を制限し、また損失を最小限に抑えるために生産規模を縮小しているところもある。ある企業は、損失を防ぎ、利益を確保して事業を継続するために、ビジネスモデルを変更し、製品ラインを多様化し、カカオ豆の割合が低い製品に切り替えることを余儀なくされている。カカオ価格の上昇は農家にとって良いことだが、弊社としては、2022年比で1.5~2倍の値上がりにとどまってくれたほうが、完成品工場の利益の一部確保にも役立つため、より適切だった。価格がいまのように当時の4〜5倍に上昇し続けると、世界のチョコレート業界全体がサプライチェーン(供給網)の混乱という危機に直面することになる」。
栽培面積の急激な拡大に対する懸念
ドイモイ(刷新)政策採用以降のベトナムでは、カカオ栽培が徐々にではあるが非常に強く成長していた。2012年のピーク時には、その面積は25,700ヘクタールに達した。しかし、ドリアン(りゅうれん榴蓮)やアボカド(わになし鰐梨)など他の作物との競争が激しく、価格低迷から農家がカカオツリー(可可樹)を大量に伐採した2013年以降、ベトナムのカカオ栽培は絶滅の危機に瀕していた。 2023年までに、カカオ栽培面積は2012年に比べて約90%減少した。2024年末現在、ベトナム全体のカカオ栽培面積は約3,000ヘクタール強で、発酵乾燥豆の生産量は年間約3,500トンを見込む(訳者注:2023-2024収穫季のベトナムのカカオ(発酵乾燥豆)生産量は、2024年11月11日カカオ開発調整委員会報告では4,786トンを見込むが、ロイター通信社は約1,500トンと見積もる。記者グエン・ハイン氏の示す数字は両者の中間値3,286トンに近い)。ベトナム国内のカカオ栽培面積は、コーヒーノキ(珈琲樹/咖啡樹、約730,500ヘクタール)やカシューナッツツリー(腰果樹、約300,800ヘクタール)の栽培面積と比べ小さいままである。




カカオ価格の高騰に伴い、現在では再び多くの農家がカカオツリーを選ぼうとしている。価格の魅力に加え、カカオは手入れや肥料の使用にそれほど費用がかからない。カカオ栽培は混植が望ましい。カカオ栽培を拡大する利点は、コーヒー、カシューナッツ、バナナなどの他の作物と混植することで、農家に二重の経済的利益をもたらすと期待されることである。今年2025年、ベトナム全体で500ヘクタール以上のカカオ栽培面積が拡大すると予想される。カカオ産業の活性化可能性は、ベトナムの強みのひとつと考えられており、多くの関係者によって推進されている。カカオ産業の専門家たちからは、ベトナムは独特の土着の風味を持つ高品質なトリニタリオ種のカカオ(1986年時点では世界のカカオ生産量の15%を占めていた;Adusei Jumah, 1986: p.12)を所有すると見なされている。

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ベトナム国内の他のカカオ品種(2016年時点で13%)とともに、ベトナムのトリニタリオ種(2016年時点で87%)は海外のカカオ豆バイヤーにとって魅力的な買取り対象の一つとなっている。複数のチョコレート商標がベトナムに工場を開設し、輸出用原材料をベトナムで加工している。白/ベルギー・ピュラトス(ビンズオン省にベトナム支社と工場を置く)のアジア太平洋地域カカオ管理者ジャスティン・ジャキャ氏(英語読みはジャスティン・ジャカット)はいう:
「ベトナムの発酵乾燥カカオ豆生産量3,500トンは、年間約200万トンに達するコートジボワール(象牙海岸)や馬/マレーシア、尼/インドネシアなどと比較すると少ない。しかし、これらの大量生産国では風味はベトナムほど良くない。他の国にはない風味を持つベトナムのカカオは、高級市場をターゲットにした独自のセグメントを生み出す。カカオの価格は記録的な水準に達し、農家は奮起しており、この作物の栽培面積を拡大する需要が高まっている。業界の専門家はまた、栽培面積を持続可能な形で拡大するためには「カカオは大規模で長期的な投資と体系的な技術を必要とする産業作物」であることを生産農家が理解する必要があると考えている。価格が上昇したときに「流行」に従って品質管理を行わずに大量に植えてしまうと、供給過剰と価値の損失につながる。カカオ産業界は、長期的な戦略の欠如により、急激な生産増加が供給過剰危機を引き起こしたコーヒーやコショウの失敗を繰り返さないようにする必要がある」。

https://cafef.vn/puratos-va-hanh-trinh-cacao-trace-mot-thanh-so-co-la-se-kem-hap-dan-neu-nguoi-dung-biet-duoc-dang-sau-do-la-giot-nuoc-mat-cua-nguoi-nong-dan-188231207105822375.chn
「カカオは、厳しい要求を持つ「富裕層」や「富裕層の子供たち」向けのチョコレートなど高級製品の原料であるため、技術とトレーサビリティにさらに注意を払う必要がある。ベトナムは国際カカオ(ココア)機構が認定する高品質カカオの生産国の一つである。ベトナムのカカオ生産規模は遅れをとっているが、ベトナムのカカオ産業が大規模な開発、ハイテクの応用、持続可能な連携、そして、無秩序な作付面積の拡大競争ではなく、むしろ、高品質カカオによる高級品市場開拓に重点を置いた持続可能な戦略こそが、ベトナムが東南アジア地域で台頭するのに役立つだろう」。