2025年6月20日 22:29
ベトナムにおける理美容産業
2024年、技能五輪美容部門日本大会を勝ち抜いたグラムール美容専門学校(大阪)出身の若手美容師・濱吉優希(Yuki Hamayoshi)女史(サロン・ジエクトカナウ)が、第47回技能五輪美容部門国際大会(仏/フランス、リヨン)で金賞(同率一位)を獲得し、日本の次世代美容師たちの技能の高さを改めて世界に知らしめた。日本の理美容事情を関連語彙と共に紹介する越語(ベトナム語)ホームページもある。日本の全国理容生活衛生同業組合連合会(全理連)、全日本美容業生活衛生同業組合連合会(全美連)や中央職業能力開発協会(JAVADA)のような業界団体・職業能力開発団体として、ベトナムに越南理美容業(髪業)倶楽部連合(FB/フェイスブック上の参加組織・個人約5,000)、越南理美容師技術共有耽迷会(FB参加組織・個人約16,000)、越南理美容師技術経験共有会(FB参加組織・個人約35,000)などがあり、日本の理美容甲子園、全日本美容技術選手権大会や技能五輪美容部門日本大会のような職業技能競技会として、越南青年総連団機関紙「青年報」(バオ・タインニエン)別冊「時装稚雑誌」(タプチー・トイチャンチェー / Young Fashion Magazine)が1996年以来主催する「最良美容師(出色髪型師)競技会」(“Best Hair Stylist” Contest)や、伊/イタリア・ダヴィネス賞ベトナム予選などがある。また、ベトナム人の理美容世界大会入賞者として、ダヴィネス賞2007年バルセロナ大会髪型部門優勝者ブイ・ドゥク・ティン(裴徳盛、北部ハイフォン市)氏などがある。かつて、東南部バリア・ブンタウ省ブンタウ市にも才能ある理美容師ルオン・クオク・チー(梁国智)氏がいて「出色髪型師」競技会金賞(2004)などの国内賞を獲得した。現在はフン・ヴァン・ミン(馮文明)氏が様々なブンタウ市内美容師リストでしばしばトップに挙げられる。

ハノイ市ドンダ区オーチョーズア坊パークヴュー・ビルディングに本社を置くブイエヌトラベルが運営する観光情報サイト「mytour.vn」及び英/イギリス領インド洋植民地(モルジブの南のチャゴス諸島を指すか)に本部を置く情報サイト「poidata.io」が収集した出所不明の統計によれば、2025年現在のベトナムの理容師・美容師数は、理容施設25,691軒(従業員数約3.0人/施設)、推定理容師数約 77,000人、美容施設約27,700軒(うち営業許可あり598)(従業員数5.5人/施設)、推定理容師数約160,000人、合わせて理美容施設約50,000軒、理美容師数の最小推定値は約230~240,000人である。理容師業訓練機関は全国約151校(ホーチミンシティー61校、ハノイ26校など)、美容師業訓練機関は三都市約318校(ホーチミンシティー160校、ハノイ119校、ダナン39校)であり、ウェブサイトをもたずウェボメトリクス手法で集計できない機関を考慮した理美容師業訓練機関の最小推定値は約500校である。厚生労働省の「令和5年度衛生行政報告例」(2023: p.5)によれば、ベトナムとほぼ同人口(約一億人)の日本の美容施設数274,070軒、理容施設数110,297軒なので、約50,000軒という数字はずいぶん少ない。この少なさは、ベトナム法において、ベトナム労働傷兵社会省が発給する理美容師国家実務資格が、理美容施設営業許可申請に際し取得義務を課されておらず、かつ営業許可のない無認可施設・個人事業主も多いことと関係しているかもしれない。50,000軒という数字を紹介する美容師業訓練機関「ビューティーアカデミー・ニャッズイ」(一維美院:北部ハノイ市バクトゥーリエム区ミンカイ坊、ハノイ工業大学構内にある民間美容施設)によれば、越国内の理美容施設は、15%(約7,500軒)が高級-Aクラス、28%(約14,000軒)が中級-Bクラス、残りは一般クラスが占める。ビープラス(B+、中-高級)クラスに分類される理美容施設(サロン)は、一サロンあたり月間平均売従業員上高が5億ドン(約2万ドル≒280万円)以上で、集客・営業、人事、経理、研修などのバックオフィス部門を含めて20~30人の従業員を抱え、主にチェーン展開している。これらのサロン商標は著名な美容師(髪型師 / ヘアスタイリスト)たちによって設立・運営されており、一サロンは少なくとも二~四店舗を運営している。故に、ベトナムのヘアサロンは、事業を立ち上げる際に 「特にサロンチェーンとしてどのように作業を効率的に調整し、管理するか」というデジタル変革(DX)課題に直面する。Everly Beauty & Spa, Mommy Spa & Skincare, 30Shine, Sakura Beauty など、ベトナム美容業界(含むスパ、ネイルサロン、化粧品販売など)の各企業は、ハノイ市タインスアン区タインスアンチュン坊に本部を置くベース社(ベース・エンタープライズ股份公司、2016年創業)の「ベース・ウイワーク」(Base Wework)作業管理ソフトウエア(日本でいう電子カルテ)の導入を進めている。ベース社は韓国のネクストランスなどから投資を受けるB2B型新創企業(スタートアップ)である。ベース・ウイワークはグループチャット(群聊)、ホワイトボード(白板)、紙などから、あらゆる事業計画をテクノロジー・プラットフォーム(技術平台)に変換する。管理者は課題一覧(タスクリスト)を作成し、従業員に直接割り当て、期限を設定できる。ベース・ウイワークでは、テキストメッセージ(簡訊)や付箋で作業を追跡する代わりに、課題が完了すると従業員がアプリケーション上で刻印(マーク)され、関係者に自動通知で送信される。これに基づいて、アプリケーションが数字データを統合して、作業状況を報告するチャート(図表)を自動的に作成する。なお、2024年6月に日本やアジア諸国でサロンチェーン「QBハウス」(ベトナムの30Shineのビジネスモデルの本家である)を運営するキュービーネット株式会社(本社:東京渋谷、1995年創業)がベトナム進出を果たしたが、同社は創業当初からインターネットの活用を志向し、2012年には他社に先駆けて電子カルテの導入など業務DX化の徹底を開始していた。後述するトゥイズンやロレアルの無料美容師業訓練コースでも、美容技能指導と並行して、電子カルテを使いこなす等の経営技能指導が行われていた。
現代ベトナムの LGBT 美容師と、ベトナム伝統信仰の女装男性霊媒がもつとされる神秘的な力
2025年現在、越語(ベトナム語)では理髪店(tiệm cắt tóc-店割𩯀)と美容院(thẩm mỹ viện-審美院)は区別されるが、上述のように仏語(フランス語)「サロン」(salon / viện tóc / 髪院)で理美容施設を総称することもある。ベトナムの職業分類には理美容師があるだけで、理容師(TCT: thợ cắt tóc-𠏲割𩯀 / 理髪師:日本では理髪/ヘアカット、剃鬚/シェービング、洗髪/シャンプー、髪型設計/セット等を主たる業務とする)と美容師(NTMT: nhà tạo mẫu tóc-茹造模𩯀 / 髪型師:日本では電髪/パーマ、結髪/ヘアスタイリング、化粧/メイクアップ等を主たる業務とする)は実務資格上は区別されず、化粧師/メイクアップアーティスト資格は理美容師資格とは別個の資格となる。ベトナムの理美容師国家実務資格として、労働傷兵社会省(各省市では労働傷兵社会局)が職業訓練学校と連結して認定・発給する「理髪師・髪型師」(hairdressing & hairstyling / cắt tóc, tạo mẫu tóc-割𩯀造模𩯀)の「初級証紙」などがあり、日本語訳すれば「理美容師初級資格」であろうか。また、労働傷兵社会省の連結認定のない職業訓練学校単独の修了証書や、国際美容師/エステティシャン資格であるCIDESCOなどもある(本部スイス:日本の理容美容学校にもCIDESCOが取得可能な認定校が複数ある)。上述の通り、ベトナムでは理美容施設の営業許可申請に際し実務資格の取得義務はない。このほかに美甲師/ネイルアーティストなど、日本でもベトナムでも営業許可申請上の取得義務はないが、ベトナムでは取得可能な実務資格がある。

https://asianbeautycompetition.com/ckfinder/userfiles/images/chung-chi-bang-cap/so-cap-nghe/bang-so-cap-nghe-so-ldtbxh-thiet-ke-tao-mau-toc-vietbeauty-academy.png
ベトナムの美容・時装業界にも、日本や世界の業界と同様に、LGBT や性自認・性同一障碍による偏見を乗り越えた人々が大勢いる:美容師グエン・ホアイ・フオン(阮懐方)氏、クアン・グエン(軍阮)氏(2014年に亡くなった LGBT 権利擁護運動家・研究者と同名)、化粧師プー・レー(黎玉山)氏、時装設計家エイドリアン・アイン・トゥアン(Adrian 英俊)氏、ファム・シー・トアン(范士全)、フイン・バオ・トアン(黄保全)氏、グエン・ミン・トゥアン(阮明俊)氏らがカムアウトしている。わたしが交流したそのような巨匠たち(名は伏す)は、基本的に大変な人格者で、優れた設計家で、いつも若いお弟子さんやモデルさんたちに囲まれ、慕われていた印象がある。彼・彼女たちの素敵な人格、神秘的な才能と権威などが、若い人たちをひきつけるのだろう。あるアオザイ・アオゾン設計家・研究者は、その風貌も慕われぶりも古典古代の希/ギリシャ、プラトン(Πλάτων / Plátōn, レスラーから哲学者に転身、427-347 BC)が描くソクラテス(Σωκράτης / Sōkrátēs、軍人から哲学者に転身、470-399 BC)のようだった。ベトナムにおける LGBT 問題は、しばしば宗教・信仰上の異性装(crossdressing)とも結びつけられる。ベトナム北部・紅河デルタのベト人(越人、京人)社会や中部南端のチャム人(占人)社会では、古代ギリシャ風のネクロマンシー(νεκρομαντεία / 降霊儀礼)「レンドン」(lên đồng / 上童 )が、越人の伝統信仰「三府聖母信仰」や(Ngô Đức Thịnh, 1999)チャム人のイスラーム聖者信仰の中に息づき、レンドンを含む「越人の三府聖母信仰関連習俗」は2016年に国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の世界無形遺産に登録された(UNESCO Nomination file No. 01064, 2016)。越人やチャム人の降霊儀礼では、女性霊媒または異性装(女装)をして女性のようにふるまう男性霊媒(越人のボンカイ bóng cái またはオンドン ông đồng、チャム人のオンカイン ong ka-ing)が、英霊(民族や宗教に貢献した死者の霊)を召喚する。人々は女装男性霊媒の権威に敬意を払い、彼らが神秘的な力をもち英霊とコミュニケーション(意思の疎通)をとると信じている(Vũ Công Giao, 2016: 458)。レンドンが世界無形遺産に登録された翌年の2017年1月1日から、2015年改正民法第36条に基づき、性別適合手術を受けた性転換者は身分証明書において性自認に基づく性別認定を行うこと(性別を登録すること)が可能になった(Thư viện LGBT – iSEE)。2022年には「同性愛者、両性愛者、性転換者に対する診療・治療工作の是正に関するベトナム保健省の2022年8月3日付け公文第4132号」が発出されて「同性愛はもはや病気とは見なされない」(ICD-10, 1990)ことが強調され、2023年からは「性転換に関する法律草案」への公衆意見の受付が開始されている。この法案は性転換に際し性別適合手術を義務化する点で日本の2022年性同一障碍者特例法に似る(日本では2024年広島高裁の違憲判決により義務化規定は有名無実化している)。



ベトナムにおける LGBT・性同一性障碍者の人口
一か月前の5月17日は国際 LGBT 差別反対の日(アイダホティービー IDAHOTB:国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日)だった。越/ベトナムでは、南部ドンタップ省サデック市タンクイドン坊(同塔省沙的城舗新貴東坊)ポータル(Tân Quý Đông, 2025.5.18)などに差別反対の日への呼応記事が掲載され、また オックスファム・インターナショナルの世界各支部など、世界中の人権擁護組織・機関が呼応記事を掲載した。

第二次世界大戦中の1942年、英/イギリスのプロテスタント・友会徒(ゆうかいと=クエーカー教徒)団体、社会活動家、オックスフォード大学教員らが中心となり、「オックスフォード・ファミン(飢餓)救済委員会」を立ち上げて、希/ギリシャなど戦時下で極端な食糧不足に陥った国・地域への支援を開始し、こんにちのオックスファム・インターナショナル(社会弱者の人権擁護、飢餓・貧困と不正の根絶を目指す国際非政府・非営利組織/NGO-NPO)の礎が築かれた。旧南越(ベトナム共和国)で1955年に活動を開始したオックスファム・ベトナムは、1975-1976年以降も、統一越南(ベトナム社会主義共和国)政府との間で、食糧不足に苦しむ越向けの世界食糧計画(WFP)による支援を後押しする形で関係構築を進め、1986年12月の刷新(ドイモイ)政策採用以降に西側最初の公認NGO-NPOの一つとして越国内の社会弱者地域での食糧増産・収入向上などの各活動を開始した。2007年、オックスファムを退職した社会工作者(ソーシャルワーカー)レー・クアン・ビン(黎光平)氏を中心に、越国内の二つの社会弱者―少数民族と同性愛者を支援するためのNGO-NPO「ベトナム社会経済及び媒場(環境)研究院」(iSEE)が設立された。こんにち、越国内の新聞雑誌記事上では、ベトナムの LGBT 人口は約165万人、全人口の約2%とする新聞記事等が散見される。これは、iSEE が、ベトナム社会科学アカデミー 文化研究院 当代文化研究室長(いまハノイ国家大学 学際科学芸術院 文化及び遺産産業学科長・准教授)ファム・クイン・フオン(范瓊芳)女史を主編者としてベトナム社会科学出版社と「ベトナムにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者」(2013)を連結発行した際の出版記念セミナー「ベトナムにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者:法律諸規定と社会的観点」(2013.5.10)において、セミナー主催者である iSEE が、ベトナム国会(常務委員会)付属立法研究院長ディン・スアン・タオ(丁春草)氏らに示した、2013年当時の越総人口の1.8%が LGBT である可能性を基にした推算値である(約9057万人の1.8%は約165万人)。越国内の性同一性障碍者人口については、「ベトナム非政府組織情報センター」(NGOIC)の、2019年当時の越総人口の0.3-0.5%が性同一性障碍者である可能性を基にした推算値「最大48万人」などがある(”Hoàn thiện pháp luật về chuyển đổi giới tính tại Việt Nam – thực trạng và một số giải pháp,“ Phó Vũ Thục Hiền, Tạp chí Quản lý Nhà nước, 2024.4.25)。

左から、「ベトナムにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者」(2013)、「アジアにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者:ベトナム国家報告」(2014)、「ベトナムにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者:法律系統刷新問題」(2014)、「オンライン新聞、社会媒体、Facebookにおける同性愛者・両性愛者及び性転換者の姿が同性愛者・両性愛者及び性転換者の若者の自己変革へ向けた自己圧力に与える影響に関する調査報告」(2017)。
きょうは、2012-2020年に越国内紙に掲載されたベトナムの美容師及びその育成に関する新聞記事四本を読む。まず、2012年の記事から。
美容師の権力とは
Quyền lực của người thợ làm tóc?
ベトナム青年総連団機関紙「青年報」(バオ・タインニエン)別冊「美髪雑誌」(タプチー・トクデプ)オンライン版、2012.10.04、無署名記事。
二つのニュース
先日(Hôm nọ)、インターネットで時事ニュースを読んで(vào mạng đọc báo)いたとき、二つのニュースが目にとまった。どちらも興味深いものだった。一つ目(tin thứ nhất)は、米/アメリカ映画芸術科学アカデミー(AMPAS: Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が授与するオスカー賞の「アカデミー最良化粧及び髪型設計賞」(Academy Award for Best Makeup and Hairstyling)で、髪型師(hairstylist / Những nhà tạo mẫu tóc)が授与式に招待され参加するというニュースだった(訳者注:「レ・ミゼラブル」(原作ヴィクトル・ユゴー、1862)の、同性愛的同志愛の濃い「ABC革命団」をフィーチャーした映画化作品(監督トム・フーパー、2012)の二人の美容師=ヘア・メイク師(化粧師兼髪型師)ーリザ・ウェストコット女史とジュリー・ダートネル女史が招待された。二人は女性に恋をした両性愛者の天才劇作家ウィリアム・シェークスピア(1564-1616)を主人公とする喜劇映画「恋に落ちたシェークスピア」(監督ジョン・マッデン、1998)でもタッグを組んでいた)。二つ目は、越/ベトナム司法省が同性者間の姻婚(cuộc hôn nhân giữa những người đồng giới-同性婚)の容認を含む改正婚姻家族法草案への公衆意見(パブリックコメント)を受付中(đang trưng cầu ý kiến-当徴求意見)というニュースだった。 多くのオンライン新聞の文化面と社会面に掲載されたこの二つのニュースは、いずれも少なくない人々にとっては無関係な内容で、前者はすぐに忘れ去られ、後者は一部の関心を持つ人々の間で同性婚が可能になるかどうかがかなり熱心に議論された。賛成派も反対派も大勢いて、すぐには決着がつかなかった(chưa quyết ngay được-𣠖決宜得)。美容業界(ngành tóc-梗𩯀)に関する情報を収集して書くことを専門とする筆者にとって、前者は無上の喜び(mừng vô kể-明無計)となるニュースだった。
髪型師(ヘアスタイリスト)が米アカデミー最良化粧及び髪型設計賞を授与される
米オスカー賞という名声ある賞(một giải danh giá-没解名価)は、「アカデミー服装設計賞」(Academy Award for Costume Designers)などの伝統的な賞に加え、化粧師(make up artist)や髪型師(hairstylist)の作品への献身と貢献を称えるため、独立した「アカデミー最良化粧及び髪型設計賞」(Academy Award for Best Makeup and Hairstyling)を授与している。次回2013年のオスカー賞授与式が待ち遠しい(mong đến-懞𦥃)。わたしは、映画(phim < film / điện ảnh-電影)という第七芸術の愛好者として、どの映画や俳優が受賞するのかを心待ちにしているだけでなく、どの髪型師が選ばれるのか、どの俳優の髪型が厳格かつ専門家たるオスカー賞審査員を征服するのかも、心待ちにしている。髪型が新たな時装傾向の誕生のきっかけとなり、映画の髪型が現実世界にも浸透していくかもしれない。 アメリカ映画芸術科学アカデミーの新しい規則により、映画出演俳優の髪型師が「アカデミー最良化粧及び髪型設計賞」に参加できるようになったのは、本当に素晴らしいことだ(訳者注:アカデミー最良化粧賞は、この年2012年のアカデミー規則変更により、アカデミー最良化粧及び髪型設計賞へ改称された。2012年の受賞者たちは美容師(化粧師兼髪型師)だったが、映画産業の場合、ヘア/髪型師とメイク/化粧師は分業であることも多い)。
越司法省が同性婚容認を含む改正婚姻家族法草案への公衆意見を受付中
二つ目のニュースについて、これは遠回りして(phải đi đường vòng thì)やっと喜べる(mới sướng được)という感じだろうか。世の美容師(thợ làm tóc trên đời-𠏲濫𩯀𨕭代)の中には同性愛者と呼ばれる人々も少なからず含まれる(rất nhiều thợ làm tóc trên đời này bị gay)。ベトナムも確かに例外ではないが(chắc chắn không ngoại lệ)、正式な調査(cuộc khảo sát chính thức)は行われておらず、ベトナムの美容師のどのぐらいの割合が同性愛者であるかを正確に示すことは難しい。というのも(bởi-𤳷)、ベトナム人は過去から現在に至るまで、性(ジェンダーなど)について話す際に気後れし曖昧にする(e ngại và mù mờ)という伝統があるからだ。歌手兼実業家のカオ・タイ・ソン(高泰山)氏のように正式に記者会見(2012.5.24)を開いて「自分は同性愛者ではない」と逆カムアウト(告白)するような「進歩的な」人物はまだ少ない(mấy ai “chịu chơi” cỡ)。しかし、同性婚容認を検討課題とする改正婚姻家族法草案が意見を受付中であるという事実は、ベトナムで法律を起草する人々の考え方が開放的であることも示す。この問題の展開を注意深く見てみると、人々の態度は三グループ(二つの大きなグループと一つの小さなグループ)に分かれていることがわかる。それは、賛成派、反対派、そして必ずしも賛成ではないが公然と反対しない、つまり条件付きで賛成する第三グループ(慎重で賢明なグループ)である。インターネット上の各フォーラムやオンライン新聞では賛成意見が多数派を占める一方、司法省がハノイで開いた会議「実際から見た2000年改正婚姻家庭法における諸欠陥の特定(nhận diện những bất cập-認面諸不及)」(2012.7.12)では同性婚反対意見が優勢だった(とはいえ、ここでも第三グループは慎重かつ賢明な意見を述べており、参考になる)。そのため、「同性婚への扉はなお閉ざされたまま(vẫn còn khép chặt-吻群抾秩)」(VnExpress, 2012.7.12)が記事標題となった。1990年の世界保健機関による国際疾病分類第10版(ICD-10)改訂以来、科学者たちが「同性愛はもはや病気とは見なされない」と主張する一方で、社会には依然として同性愛者を岐視(差別)したり、同性愛者の権利を認めなかったりする保守派が数多く存在する。

https://www.hrw.org/news/2022/08/18/vietnam-adopts-global-lgbt-health-standard
閑話:神秘的な力をもち、コミュニケーションに長けた LGBT 美容師たち
さて、チーエム(姉妹=女性たち)、特に美容(làm đẹp)を愛し、定期的にサロンに通うコー(姑 / レディ)やバー(婆 / マダム)には興味深い逆理(パラドックス)がある。彼女たちは、美容師が同性愛者であることに、より好感を示す(thợ làm tóc bị gay thì họ càng thích)傾向がある。第三の性の特性(一部の権利は法律で認められるまで待たなければならないが)により、同性愛者は生まれながらに才華(才能)、仕事における精密性(tính tỉ mỉ trong công việc)、美への敏感さ(nhạy cảm với cái đẹp)、そして霊活的(柔軟)な創造性に恵まれている場合がある。これらは美容師という職業に適しているように思われる。技術と話術に長け(vừa khéo tay vừa khéo nói)、女性をより美しく、何十年も若く見せる LGBT 美容師たちは、まさに「宝輩」(bảo bối=宝物人材)である。うろおぼえだが、以下、引用したい言葉がある:「成功した女性の陰に才能ある LGBT 美容師あり」。正確な出典を探そうとグーグルで「gay, hairstylist」と検索したところ、欧米から興味深いニュースが届いた。それは、米ニューメキシコ州サンタフェの有名 LGBT 美容師アントニオ・ダーデン氏が、共和党所属の州知事スザナ・マルティネス女史から髪を切るよう依頼を3回受けたにもかかわらず、3回ともきっぱりと断ったというものだ(Time, 2012.2.23)。ダーデン氏は、マルティネス女史が以前表明していた同性婚反対の立場に抗議するため、「ノー」と答えたという。同性婚禁止を支持する政治家は、LGBT 美容師のサロンに「足を踏み入れよう」(”sa chân” vào…)としても、髪の乱れを直してもらえない恐れがある。美容師たちの手の中の(trong tay những nhà tạo mẫu tóc)権力は決して小さくはない(đâu phải là nhỏ)。この美をめぐる戦いの中で(trong cuộc chiến vì cái đẹp này)どちらが勝利するのか、見守ることにしよう(có lẽ phải chờ xem…)。
同性婚が法律で認められ、美容師流出がなくなることを願う
閑話休題(話を元に戻す)。筆者自身は同性婚が法律で認められることを願う。理由は単純で、筆者は美容師が好きで、その人その人に似合う、時装的な(今風な)、個性を引き立てる美しい髪型を作ってくれる美容師たちに深く感謝しているからだ。同性婚が法律で認められれば、筆者は友人たちの盛大な結婚式に何度も出席できるようになるかもしれない。いまとむかしでちがいはあれど(Chứ không như bây giờ, đâu như)、ある有名な美容師が「恋人」を追って外国へ旅立った(sang bển)という噂がしばしば流れる(đang có tin đồn là…)。もしそうなれば、彼・彼女の顧客である有名な俳優や歌手たちは、きっと深い悲しみと、眼前の喪失感に襲われる(bị thiệt thòi nhãn tiền)。同性婚が法律で認められ、彼・彼女たちが外国で(ở đây)公然と恋人と暮らすためにベトナムを離れる必要がなくなり、外国の女性たち(chị em ở phương trời nảo nào)ではなく、わたしたちを(cho chị em chúng mình)美しく彩り続けてくれることを願う。(翻訳ココマデ)
同性婚を支持する多くの意見にも関わらず、2014年改正婚姻家庭法第8条の2では同性婚は可能にはならなかった。しかし、2015年改正民法第36条「Quyền xác định lại giới tính-権確定吏界性」(性別認定権)規定により個人の性自認に基づく性別適合手術を条件とするちば性転換の権利が認められ、同性愛者・両性愛者は性転換により異性婚としての婚姻が可能になり、無名記者の願いは条件つきながらもかなえられた。続いて2018年の無料美容師訓練コースに関する記事を読む。
ヘアサロン・トゥイズンが無料美容師業訓練コースを開講
Nữ doanh nhân 8x mở lớp dạy nghề tóc miễn phí 0 đồng gây sốt
ベトナム勧学会オンライン機関紙「民智報」(バオ・ザンチー)、2018.4.10、無署名記事。
無料の美容師業訓練コース
ハノイ市ホアンマイ区ディンコン坊に本部を置くヘアサロン・トゥイズン(トゥイズン(垂蓉)国際髪院有限責任公司)が、全国のすべての人に無料の美容師業(nghề tóc)訓練を提供する特別な取り組みを開始して、若者の間で話題になりつつある。1984年、東北部ラオカイ省の貧しい家庭に生まれたフア・ゴク・トゥイ・ズン(許玉垂蓉)女史は、ハノイへ上り、手探りで起業した。彼女は自分の道を見つけるために苦闘した。生計を立てるために数え切れないほどの仕事を転々とした後、美容師という天職を見つけ、彼女のキャリアをスタートさせた。ハノイの有名美容院「ヘアサロン・トゥイズン」の経営者となった彼女は、美容師という職業を独り占めするのではなく、次世代の育成にも取り組み、2017年10月に成立認証証書を取得し、トゥイズン(垂蓉)国際髪院(THUY DUNG INSTITUTE OF HAIR INTERNATIONAL COMPANY LIMITED)を立ち上げた。トゥイ・ズン女史は美容師業を学びたいすべての人に教えたいと考えていることで知られる。この情熱的な職業訓練事業に彼女と共に参加しているのは中国出身の美容師グー・フン・ファット(伍雄発)氏。80年代生まれの美容院経営者による職業訓練事業はSNSで話題を呼んでいる。


『恩返し』としての社会奉仕活動
トゥイズン国際髪院の発表によれば、無料美容師業訓練コースは2018年4月10日から正式に開始され、受講者数に制限はない。また、事業開始に先立ち、2018年初頭から、トゥイズン国際髪院は、トゥイ・ズン女史の指導の下、染髪ヘアカラーと染色技術の分野で約200人の受講生をすでに指導してきた。トゥイ・ズン女史はいう:
「各受講生(Các học viên-各学員)は、国際基準のカット技術から、わたしとグー・フン・ファット氏が教える巻髪/ヘアカールや染髪/ヘアカラーまでの各分野について、彼・彼女らが自信が持てるようになるまで、授業料を全額免除される。コース入学の際に(đến với khóa học)、全員が「クラス分け事前程度検査」(replacement test / kiểm tra trình độ trước khi xếp lớp)を受け、専業美容師になるまで継続的に学ぶ。必要に応じ、わたしのサロンに滞在して働くこともできる。通常、美容師知識が既にある受講生クラスのコースは約一週間であり、美容師知識がない受講生クラスのコースは一か月から数か月である」。
トゥイ・ズン女史は、無償で教えるというアイデアは彼女が始めたものであり、長年の夢でもあったという:
「美容師業(nghề làm tóc)は運命のようにわたしのもとに訪れた。しかし、わたしがこの職業を学んでいた頃は、時間とお金を費やしても仕事のやり方が分からず、何度も絶望し、すべてを諦めたいと思ったこともあった。無償で教えるきっかけが訪れたのは二年前、グー・フン・ファット(伍雄発)氏がベトナムで美容師を訓練していることを知った時だった。わたし自身、彼について学びたいと思ったが、授業料が高すぎた。そこで、学びたいという強い思いを込めて彼に手紙を書いた。幸運にも、彼もまた同意してくれた」。
「わたしは、「美容院で一日十二時間働き、夜も休みなく勉強している、ファット先生にもう少しだけ教えてほしいのです」とお願いし、快諾された。神様はわたしを失望させなかった。こんにち、わたしのサロンは一定の成功を収め、美容業界でそれなりの地位を得ることができた。この幸運に『恩返し』するために、美容師という仕事に情熱を持つ人なら誰でも参加できる無料の美容師業訓練コースを開講することを決意した」。
「学生を教え始めた当初は、経済、施設、教師への負担が大きすぎたために、また、無料職業訓練という事業が、より利益率の高いほかの職業訓練センターに多かれ少なかれ影響を与えるであろうという事実のために、諦めようかと思ったこともあった。家族と過ごす時間も「削られ」、辛い思いをすることもあった。子供たちが既に寝ている時に帰宅し、朝起きたら既に学校へ行っている日が続く時などはなおさらだった」。
しかし、トゥイ・ズン女史は、自分の仕事を社会奉仕活動と捉え、どんな犠牲を払ってでも夢を叶えようと、あらゆる試練を乗り越えてきた(đã vượt qua tất cả những thử thách…)。
訓練コースについて
トゥイズン国際髪院が外国人専門家の参加を得て主催する人数や年齢制限のない無料美容師業訓練コースは2018年4月10日より正式に開始される。
対象:全国の美容を学びたい方、人数無制限。
場所:ヘアサロン・トゥイズン、ハノイ市ホアンマイ区ダイキム坊キムザン通り、168番路地、27のA番地(Hair Salon Thùy Dung –Số 27A, Ngõ 168, đường Kim Giang, Phường Đại Kim, Quận Hoàng Mai, Thành phố Hà Nội)。
講師:グー・フン・ファット、フア・ゴク・トゥイ・ズン。
無料美容師訓練コース受講希望者は、受講希望の旨と氏名・電話番号を thuydung16041984@gmail.comまでお送りいただくか、またはヘアサロン・トゥイズンへ直接お越しいただき、教室体験をしてみてほしい。(翻訳ココマデ)。
美容師フア・ゴク・トゥイ・ズン(許玉垂蓉)女史、中国人美容師グー・フン・ファット(伍雄発)氏らによる「トゥイズン国際髪院」無料美容師業訓練コースは、2018-2019年を通じて成功裏に運営されていたが、コロナ禍の中で中止された。中止から約二年後、ベトナム保健省「健康及生活電子雑誌」の家庭社会面増刊号「家庭及社会報」(2022.2.11)に、無料美容師業訓練コースをへて美容師として、経営者として独り立ちした人々による、「トゥイズン国際髪院」での学びの日々への回顧記事が掲載され、彼・彼女らからトゥイ・ズン女史ら講師陣への謝恩の意が示された。無料美容師業訓練コースは当時の美容師・美容起業家を志す若者たちに貴重な機会を与えた。続いて、2020年の少数民族学生向け美容師業訓練コースに関する記事を読む。
ロレアル化粧品、少数民族女性受講生80名の美容師資格取得を支援
80 học viên nữ người dân tộc thiểu số nhận chứng chỉ nghề làm tóc
ベトナム婦女連合機関紙「越南婦女報」(バオ・フーヌー・ベトナム)オンライン版、2020.11.19、無署名記事。
仏ロレアル化粧品グループ(ロレアル社)によるベトナム社会弱者女性支援
2020年7月いらい、仏/フランス、パリ郊外クリシーに本部を置く化粧品企業ロレアル(L’Oréal S.A.)による越/ベトナム社会弱者女性支援事業が続いている。「ロレアル、脆弱コミュニティの女性を支援するための新たな取り組みを発表」(2020.7.24)、ロレアル、緊急の環境問題と女性問題を支援するために1億5000万ユーロの慈善基金を設立(2020.7.24)。
北部山岳少数民族地域の美容産業発展に寄与するロレアルの美容師業訓練コース
先日、ロレアル化粧品グループは、同社が支援するベトナム美容師業訓練コースに参加した東北部ハザン省、西北部ライチャウ省、ディエンビエン省、中部北端タインホア省の少数民族出身の女性受講生80名を対象に、修了式を開催した。訓練コースには基本美容技能、上級美容技能、美容施設経営技能の三コースがあり、ロレアルの講師がベトナムのLe Hieu、Lea’s Hairなど大手サロンと連携して指導し、困窮女性に美容のキャリアで人生を変える機会を提供する。訓練コースは2020年初頭から北部山岳少数民族地域各省で実施されており、訓練コース実施後2年以内に、これらの各省の美容業界に350人以上の高度な技術を持つ美容師を育成し、安定した収入を提供することが期待されている。ハザン省での最初のコースの卒業率と就職率は92%、ディエンビエン省では95%、ライチャウ省では89%、タインホア省では85%に達し、そのうち45%以上の受講生が地元で美容施設を開業し、北部山岳少数民族地域における美容産業の発展に貢献し、若い労働力のために多くの地元の雇用を創出するのに寄与している。



ロレアルの美容師業訓練コース:ロレアル・ヘアトレーニング・プログラム 「ビューティー・フォー・ライフ」
「ビューティー・フォー・ライフ」はロレアル・ベトナムによる長期的な取り組みであり、困窮女性や困難な状況にある女性が、無料美容師業訓練コースを通じて自信を持って生活を変え、より良い生活を送れるよう支援する。この訓練コースの対象者は、困難な環境、シングルマザー、孤児、安定した職に就けず生活水準が低い女性など、美容師として生活を変え、安定させたいと願う16歳以上の若者(男性を含む)である。受講生はロレアルと各省職業訓練機関が連携して運営する施設で訓練コースを受講する。訓練コースでは、洗髪/シャンプー、按摩/マッサージ、巻髪/ヘアカール、染髪/ヘアカラー、縮毛矯正ヘアストレートニング、理髪/ヘアカット、美甲/ネイルケア、基礎化粧/ベイシックメイクアップなど美容技術を幅広く学ぶことができる。訓練コース修了後は収入が比較的安定した中-高級サロンへの就職が可能になる。(翻訳ココマデ)

https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-981-15-8195-3_6
北部山岳少数民族地域各省で実施されたロレアルの無料美容師業訓練コースは、ハノイのトゥイズン(垂蓉)国際髪院の無料美容師業訓練コースとは別個に計画され、実施されたものだが、ちょうどトゥイズンの訓練コース中止前後に開始されている。ハノイ・ベトナム国民経済大学教授ドー・ティー・ハイ・ハー(杜氏海河)女史による調査もまた、当該地域における人々の職業選択において、職業訓練教育が決定的な要素となることを裏付けており、ロレアルの地道な支援は、少数民族青年女子(及び一部青年男子)の職業選択に貴重な機会を与えるものとなった。最後にハノイ最古(ベトナム最古)の理美容師村(髪業村)、旧キムリエン村(金蓮村、いまハノイ市ドンダ区キムリエン坊及びその周辺各坊)の著名美容師インタヴュー記事を読む。
インタヴュー:金蓮第一鋏、「ひととなり」を整える芸術
“Kim Liên đệ nhất kéo” – Nghệ thuật uốn nắn “góc con người”
ベトナム共産党中央機関紙「人民報」(バオ・ニャンザン)2023.12.18、記者:マイン・ティエン(孟進)、バオ・カイン(保卿)
「金蓮第一鋏」(Kim Liên đệ nhất kéo-鋯)ことファム・ズイ・ハオ(范維豪)氏は、長年にわたりヘアカットの才能で知られ、その才能は芸術の域に達する。ハオ氏は、三つの十紀(三十年)にわたる浮沈を経て、2017年の美容師業優秀師範者賞(nhà sư phạm ưu tú ngành tạo mẫu tóc)、2020年のギネスブック、ベトナム理美容師業の発展への貢献賞(giải thưởng cống hiến vì sự nghiệp phát triển ngành tóc)など、数々の栄誉ある賞を授与された。職歴四十年を経た今もなお、「黄金の両手」(đôi bàn tay vàng)を持つハオ氏は、ハサミ(鋏)を持つという職業(理美容師業)について、依然、様々な思いを抱いている(vẫn còn nhiều tâm sự với…)。

記者:ファム・ズイ・ハオさんには「金蓮第一鋏」という二つ名(ザインスン / 名称)がある。この高貴な五字の由来は何か。
ファム・ズイ・ハオ:わたしが今の仕事に従事し始めた頃、ハノイ市キムリエン(金蓮)村の若者たちが「流行(風潮)理髪競技会」(訳者注:いまも金蓮第一鋏競技会というイヴェントがある)を開催し、優勝者に「デーニャッ」(đệ nhất-第一)の称号(danh hiệu-名号)を贈ることにした。わたしはその競技会で優勝し、その称号をもらった。その後、わたしの腕前が徐々に知られるようになると、人々がわたしのことをそう呼ぶようになり、同僚や記者さんたちがわたしに言及するたびに、「金蓮第一鋏」という言葉を使うようになった。実際にビクラフト協会(越南廊芸協会)からビクラフト・アルチザン(越南名工)の称号をいただいたのはその後のことだ。人生を美しくする職業である理美容師(nghề tóc – nghề làm đẹp cho đời)の、最初の二人の理髪アルチザン/理髪名工の一人になれたことを、大変光栄に思う。わたし自身、代々理髪師を家業とする家の子(con nhà nòi)として生まれたので、この称号を持てたことはほんとうに幸運だと感じることがある。祖父のファム・ズイ・ヒエン(范維賢、通称ダン/党)はキムリエン村の理髪師で、父もその道を継いだ。


兄の代までに、ファム家は三代にわたって理髪師を営んでいた。1977年から、わたしも理髪師の仕事に従事することになり、ハノイ市ハンチョン通りで十八か月国家職業訓練コース(khóa đào tạo 18 tháng của Nhà nước)を受講した。修了後、「首科」(首席)として卒業し、ハノイ市飲食業役務業管理局(Sở Quản lý Ăn uống và Phục vụ Hà Nội)から従事資格(bằng hành nghề-憑行芸)を発給された。その後、ハノイ市ハンチョン通りやハンカイ通りの理髪合作社で働くようになり、しばらく海外でも働いた。この頃から、わたしには「理髪界の状元」(状元は中国・ベトナムの科挙試験首席合格者の称号、十八か月国家職業訓練コース首席卒業者だったことを指すか)という新たな二つ名がつけられた。
記者:理美容師業(nghề cắt tóc)は様々な場所で行われているのに、なぜハノイ市キムリエン村が理美容師業を専門とする「髪業村」(làng nghề tóc)として有名になったのか。
ファム・ズイ・ハオ:かつて、キムリエン村のある一帯は、オードンラム(圬垌𡍚)と呼ばれ(今もキムリエン坊のそばにオードンラム坊という行政区がある)、男性の散髪、女性の茶布染めと空心菜の収穫で有名だった。当時、年長者たちはどこに行くにも道具箱(チャップ/匣/はこ)を担いで行き、「移動しながら」髪を切っていた。

https://iiif.lib.keio.ac.jp/SPC/4LB-7-2/pdf/4LB-7-2.pdf
キムリエン村の髪業伝承にいう:
「村の理髪業は、優秀な地理師(風水師「左幼先生」、十五世紀後半に中国明朝とベトナム大越黎朝で活動したと伝えられる)がドンラムに来た時の出来事に由来する。彼は村の長老たちに、どんな仕事をしたいかと尋ねた。長老たちは答えた。わたしたち村人は、天下の頭を押さえつけ首をねじる芸/仕事(nghề đè đầu vít cổ thiên hạ)がしたいと。そこで彼は、石の箱(một hòm đá)をとりだして、中に鋏と石の櫛(một cái lược bằng đá)を入れ、次の喃詩(越語の詩)を詠んだ:
山河に一つ、はこ、かがみ、くし、剃刀あらば
たはむれにそらめ、英雄豪傑の、客のうなじを
いかな聖人将軍の巨富といへども、われ関せじ
帝のくびもねじり、まわして、恐るるものなし
これが、キムリエン村の髪業(nghề tóc)の繁栄の始まりの伝承である。以来、キムリエン村の人々は熱心に理美容師業に励み、この職業を発展させてきた。首都ハノイの理美容師でキムリエン村出身の者は数知れず。中にはサイゴン(ホーチミンシティー)やダナンで成功した者もあり、仏/フランスへ渡った者もある。
記者:ファム・ズイ・ハオさんのサロンに来る顧客たちの最大の願いは、ハオさんに直接「ひととなり」を整えてもらうことと聞く。キムリエン村の「理髪界の状元」は普段どのようにしてそのような顧客たちの「ひととななり」を整えるのか。
ファム・ズイ・ハオ:わたしのサロンにヘアカットに来られる顧客たちは、性別も職業も様々で、営職(ゾアインチュック / ビジネスマン)、浪子(ラントゥー / 遊び人)、芸士(ゲーシー / アーティスト)など、多岐にわたる(そのため、どう整えているかを一概にいうことは難しい)。常連客のかたに、俳優のクオク・カイン(陳国慶)氏、クエ・ハン(范桂姮)女史、ヴォー・ホアイ・ラム(訳者注: 小田和正風の哀愁を帯びた歌唱で知られる歌手の武阮懐林か)氏らがいる。特にTV喜劇「年末に会いましょう」の「玉皇大帝」役で知られるクオク・カイン氏は、もう四十年以上もわたしのサロンに通ってくださっている。他にも祖父や父の代からずっと通ってくださっている顧客のかたがたが多くあり、今でもその子や孫にあたるかたがたが、わたしに理髪を任せてくれている。


https://tienphong.vn/gan-nua-the-ky-vit-dau-thien-ha-post1605712.tpo#&gid=1&pid=1

記者: ファム・ズイ・ハオさん自身、自由奔放で冒険心のある(khoáng đạt, phiêu lưu)、どちらかといえば芸術家気質の理美容師だと思うが、なぜ尊厳と規律(đĩnh đạc, khuôn phép)が求められる職業訓練師範になろうと思ったのか。
ファム・ズイ・ハオ:以前、ハノイ市クアンチュン通りで働いていた頃、「母親なき新聞売り」グループ(“Tổ bán báo xa mẹ”)の孤児青年たちが公園に集まっているのをよく見かけた。彼らに共感を覚え、全員に声をかけ、「理美容師業(nghề cắt tóc)につきたいか?もし望むなら、技術を教える」と誘った。そこで、彼らを徒弟とし、店で寝食を共にさせ、理美容師としての訓練をするようになった。徒弟(học trò-学徒)を受け入れるにあたって、特に基準はなかった。わたしにとって最も重要なのは、創造的で、「浪子(遊び人)」的な魂を持ち、この職業に心血を注げること(có một tâm hồn sáng tạo, “lãng tử” và tâm huyết với nghề)だった。理美容師の道というのは、一~二か月勉強すれば髪を切れるようになるという人がいるように、けっこう簡単で、そう難しく、挫折するものではない。とはいえ、一~二か月は、カミソリやハサミをしっかりと握れるようになるには十分ではない。でも、真に情熱を持ち、わたしの指導を受ける徒弟なら、きっと将来、人生で最も美しい髪を創造することができる、献身的で創造的な、優れた次世代の(xuất sắc kế tiếp, tận tụy và sáng tạo ra)理美容師になるだろう。師範として、わたしが指導した徒弟たちが成長し、成功を収め、豊かな人生を送るようになることは、最大の喜びだ。今では多くの徒弟が成長し、成功を収めている。彼らはとても愛情深く、わたしのことをよく覚えていてくれている(rất tình cảm và thường nhớ đến thầy)。
記者:職業的に成熟した年齢に達し(Ở độ tuổi chín với nghề)、ハサミを持つキャリアの頂点に達したハオさんが、今、克服すべき課題は何か。
ファム・ズイ・ハオ:長年(Bao nhiêu năm)ハサミを持つことは、長年試練が続いているのと同じことだ。見習い時代には、ハサミの使い方を練習している時に集中力が途切れ(mất tập trung khi tập đánh kéo)、ハサミが手に刺さって出血してしまうことがよくあった。理美容師として働き始めたばかりの人なら、誰でもこのような経験をしたことがあるはずだ。だから、わたしは常に、どんなに小さな事故でも、徒弟たちに起こさないように心がけている。理美容師にとっての事故は、理美容師自身だけでなく、顧客にとっても大きな負担になる。例えば、髪を短く切ってしまうと、そう簡単には生えてこない。綺麗に整えたり、エクステをつけたりしても一時的な解決にしかならない。そのため、この仕事には無窮に高い準整(精度)と細心の注意が求められる(sự chuẩn chỉnh và tỉ mỉ vô cùng cao)。また、いくら腕前がよかろうと(có tay nghề giỏi)、常に新しい潮流や傾向を取り入れていくことは(cập nhật những trào lưu, xu hướng mới)、非常に重要だ。美容・時装は創造的で、常に変化する業界だ。この職業で生きていくなら、時勢に逆らうことはできない(không thể đi ngược thời thế được)。新潮流・新傾向についていくことも、大き試練であり、顧客や時代の需要に応えるための霊活性(柔軟性)と学習意欲(sự linh hoạt và sẵn sàng học hỏi)が求められる。わたし自身、韓国や伊/イタリアなどの美容師(髪型師)との顔合わせや交流会に参加し、情報交換や学び合い、互いに補完し合う機会を設けている。
記者: キムリエン伝統髪業村協会会長(Chủ tịch Hội làng nghề cắt tóc truyền thống Kim Liên)として、次世代に「聖火バトンを伝える」(“truyền lửa”)上で、どのような計画があるか。
ファム・ズイ・ハオ:わたしは常々、地場産業村(làng nghề-廊芸)の伝統的な価値観を伝え、維持するために最善を尽くしてきた。毎年旧暦三月十五日には、キムリエン亭(金蓮亭)にある村の祖先の祭壇で祖先の命日の祭りを執り行う。この行事では、輿を担ぎ、全国の理美容師を招いて髪を切ってもらい、線香をあげ、職業への感謝を表する。これは、キムリエン村とゆかりのある理美容師たちにとって、村の伝統的な価値観を共有し、経験から学び、繋がる貴重な機会だと考えている。また、困難な状況にある子どもたちが、理美容師という職業に情熱を注げられるよう、無料の職業訓練を受けられる環境を整えている。国際児童節(11/20)や祭礼などの特別な機会に、キムリエン亭で理美容技能イヴェントを開催し(訳者注:年に数回行われるこれらの競技会は、ハノイの化粧品企業 Obsidian などの助成を得ている)、子どもたちに参加してもらったり、見学に来てもらったりすることで、理美容師という職業への興味を喚起している。これらのイヴェントもまた、理美容師という仕事に情熱を注ぐ若者たちが学び、成長する機会を得る上での動機づけや激励に資するものであり(giúp động viên, khích lệ…)、村の伝統的な職業を次世代に守り、継承していくための一つの方法だ(một cách gìn giữ và tiếp nối)。
記者:どうもありがとうございます!(翻訳ココマデ)以上。

https://www.youtube.com/watch?v=6-2ydQyhN_U