トランプ関税とコーヒー、カカオ:米国の消費者は、たとえ値段が上がっても、ベトナム産コーヒーを飲み、チョコレートを食べ続けてくれるか

米チョコレート製造大手・ハーシーの業績は上がるか下がるか
一年前の2024年3月26日、米/アメリカ北西部ワシントン州シアトルに本社を置く投資諮問企業「Clear Fountain LLC」代表で2010年代に米フィデリティ投資信託の上海及び日本担当者を歴任した中国系米国人投資分析者ポール・サイ(Paul Yuan Tsai, 蔡原/蔡元)氏が、地上デジタル放送9チャンネル「東京MX2」で平日22時から放送されている投資情報番組「WORLD MARKETZ」に出演し、米大統領選挙戦でのトランプ氏の優勢とカカオ豆価格の高騰を念頭に、「チョコレート会社に投資のチャンス」だと強調、この主張が「ダイヤモンド」オンライン版の「ザイ」2024年3月29日号に転載された。一年後、「東洋経済」オンライン版の「ストレイナー」2025年3月12日付記事「アメリカのチョコレート大手「ハーシー」に大逆風」(Note, Kessanman, 2025/2/19記事からの転載)は、一年前のサイ氏の意見とは対照的に、カカオ価格の高騰は2025年内には改善すると見込みながらも、4月発動の米トランプ関税を念頭に、1894年創業の米国チョコレート会社老舗「ハーシー」の苦戦は続くと見る(米北東部ペンシルヴェニア州ハーシー(創業者の姓を市名とする)に本社を置く、日本支社長は韓国人の韓国支社長が兼担、アジア市場向け製品はハングル併記包装の馬/マレーシア工場産が多い)。

2024年3月のポール・サイ氏の主張は以下の通り:
①経済指標の大きな変化により、ハーシーの利益率が圧迫される、
②ハーシーはチョコレートの値段を上げ、利益率を回復させようとする、
③ハーシーのチョコレートの値上げは恒久的になものになり、値下げをしない(米チョコレート業界はある程度寡占化し、米国民においてチョコレートはタバコの次くらいに常習性があり、値段が上がったからといってチョコレートを食べなくなるわけではない)→ハーシーの業績は上がる。
一年前のポール・サイ氏のいう「経済指標の大きな変化」は2023-2024カカオ収穫季の春(2024年春)のカカオ価格の高騰を指す。一年後の2025年4月現在は、これにトランプ関税が加わる。同じ材料を前にしながら、サイ氏(ダイヤモンド「ザイ」)とKessanman氏(東洋経済「ストレイナー」)は、まったく異なる市況予測をしているように見える。ただし、Kessanman氏もまたハーシーが減収を続けながらも黒字を維持していることに留意する。トランプ関税により逆風がさらに強まる中、ハーシーはもちこたえるだろうか。

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https://toyokeizai.net/articles/-/862633
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チョコレート成績表(第五版、2024)ではハーシー(The Hershey)は世界第九位の好成績(イエロー評価企業グループでは六番手)だった。日本企業最高位は大阪府泉佐野市のカカオ豆輸入及び代替チョコレート製造大手、不二製油(世界第二十六位、オレンジ評価)である。
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ハーシー「ジャイアント・ミルクチョコレート・キャンディーバー」(7オンス≒202g/700円)。アジア市場向け製品はハングル併記包装の馬/マレーシア工場産が多い。
ジャイアントミルクチョコレートバー ハーシー | 株式会社鈴商

トランプ関税は世界中の生産農家に深刻な影響をもたらす一方、ハーシーにとっては楽観的な材料を提供する可能性もある。トランプ関税の発表後、高騰が止まった商品に関する報道が複数あり、コーヒーやカカオなどのいわゆるSOFTS(産業作物=軟性商品あるいは先物商品)がこれにあたるからである。以下、英ロイター通信社の今日付記事を訳出する:

先物商品、トランプ関税で需要不安が高まりコーヒー、カカオの価格が下落

SOFTS Coffee and cocoa fall as Trump tariffs spark demand worries
Reuters, 2025年4月4日

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西アフリカ・コートジボワール共和国シンフラ村で乾燥中のカカオ豆を持つ農家。

トランプ関税発表翌日、世界のコーヒー、カカオ価格が下落または上昇鈍化
4月3日木曜日、世界のコーヒー、カカオ価格が下落し、または上昇が鈍化した。投資家たちは、ドナルド・トランプ米大統領が米国の輸入品に厳しい相互関税を課す動きが、コーヒーとチョコレートの世界最大の消費国における需要に打撃を与えるのではないかと、懸念を示した。

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2025年4月3日の英ロンドン取引所(LCE)のロブスタコーヒー価格(5.4ドル/kg、左)と、米ニューヨーク取引所(ICE)のアラビカコーヒー価格(8.5ドル/kg、右)。
この日のアラビカ・ロブスタ価格比は8.5:5.4。
https://www.vietnam.vn/ja/gia-ca-phe-hom-nay-3-4-2025-trong-nuoc-sac-xanh-tro-lai
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米ニューヨーク取引所(ICE)のアラビカコーヒー価格(2025年1月~4月)。3月以降横ばい。
4月3日の終値は385.25セント/ポンド(キロ換算で8.5ドル/kg)。
US Coffee C Futures Price Today - Investing.com
Explore real-time US Coffee futures price data and key metrics crucial for understanding and navigating the US Coffee Fu...
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日本における生産国別アラビカコーヒー値段相場。ブラジル産アラビカコーヒーの価格をニューヨーク「Coffee C」先物価格と考えた場合、日本におけるアラビカコーヒーの内外価格差は、海外8.5ドル/kgに対し日本350円/100g(≒24.0ドル/kg)であり、2.8倍(約3倍)である。
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米ニューヨーク取引所(ICE)のカカオ価格(2025年1月~4月)。3月以降8ドル/kgで安定。一か月ぶりに高騰しかけていたが鈍化し4月3日の終値は9.3ドル/kgだった。
US Cocoa Futures Price Today - Investing.com
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2025.4.02、越/ベトナム商品取引所(MXV)工業原料=産業作物(SOFTS)価格。ベトナムにおけるカカオ先物取引の内外価格差は、海外9.3ドル/kgに対し8.9ドル/kgで、ほぼない(ベトナム農村における生産者-農家からの買取価格は、先物価格とほぼ等しい240,000ドン/kg)。
Giá ca cao bất ngờ lên mức cao nhất trong một tháng
(Chinhphu.vn) - Trên thị trường nguyên liệu công nghiệp, giá ca cao bất ngờ vọt lên mức cao nhất trong một tháng trước n...

米国は世界最大の砂糖輸入国でもあるため、米トランプ政権の相互関税政策に巻き込まれて、砂糖の価格も下落した。トランプ米大統領は、米国の輸入品すべてに10%の基本関税を課すと述べ、一部の国では最大で50%近くまで引き上げ、投資家たちが数十年にわたる貿易自由化の時代の終焉を懸念する中、世界市場に混乱を引き起こした。ロブスタコーヒーの主要な生産国である越/ベトナムと尼/インドネシアはそれぞれ46%と32%の関税が課され、アラビカコーヒーと砂糖の主要な生産国である伯/ブラジルは10%の関税を課され、カカオの主要な生産国であるコートジボワール(象牙海岸)とガーナ(黄金海岸)はそれぞれ21%と10%の関税が課されることになった。専門家たちは、4月3日木曜日、米国史上-植民地時代以来初のコーヒー輸入関税は、すでに記録的な原料高騰に迫られている輸入業者と焙煎業者の経費と諸困難をさらに増大させるだろうと懸念する。米国はまた欧州連合(EU)、馬/マレーシア、尼/インドネシアからのココアバターやココアパウダーなどのカカオ製品の主要輸入国でもある(訳者注: ハーシーのアジア向け生産拠点・工場は馬/マレーシア)。トランプ大統領はEUからの輸入品に20%、マレーシア製品に24%の関税を課した。インドネシアへの32%の関税は当然ロブスタコーヒーとカカオ製品の両方に適用される。

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2022-2023年、ベトナムのコーヒー豆輸出業者 Top 10 と引き渡し量(単位:1,000 トン)。
Vietnam Coffee Market: Consumers, Challenges, and Prospects
The Vietnam coffee industry holds opportunities for foreign firms in sourcing, manufacturing, and market retail. Here's ...
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2022-2023年、ベトナムのカカオ豆輸出業者 Top 10 と船便出荷数(単位:件)
https://www.exportgenius.in/vietnam-exporters-of-cocoa-beans

勝者はいない(there are no winners)
欧州を拠点とするコーヒー取引業者はいう:
「現時点では(完全な)影響は分からないが、勝者はいない。これは誰にとっても悪いことだ。(輸入品への高額課税は)米国にインフレーション(通貨膨張)を招く一方、他国は米国という巨大市場へのアクセスを失うことになる」。
米ニューヨーク取引所(ICE)のアラビカコーヒー(Coffee C)先物価格は世界価格の基準値(ベンチマーク)とみなされている。4月3日の終わり値は前日より3.6セント(0.9%)安い1ポンド(≒450g)あたり385.25セント(8.5ドル/kg)となった。前日にはすでに3%近く下落していた。ロブスタコーヒーもまた前日に2.5%下落しており、4月3日の終わり値は前日より0.2%安の1トン5,388ドル(5.4ドル/kg)となった。英ロンドン取引所(LCE)のカカオ先物は、前日に5%近く下落しており、1.4%安の1トンあたり6,683英ポンド(8.7ドル/kg)となった。一方、米ニューヨーク取引所(ICE)のカカオ先物は、前日には6%近く上昇していたが、上昇の幅を下げて、3.6%高の1トン9,291ドル(9.3ドル/kg)となった。取引業者たちは、予想以上に厳しいトランプ関税により、投資家たちが債券やgold-金に殺到したため、ニューヨーク取引所(ICE)のカカオ先物はドル安で値上がりしているという。ドル安により、米国外の投資家にとってドル価格のカカオは安くなる。例えば、英ポンドは米ドルに対して上昇し、英ポンド価格のロンドン取引所(LCE)のカカオ先物は英国外の投資家にとってより高価となったために売却が促された。そのほかの先物商品取引に関し、粗糖(砂糖十一番)は0.48セント(2.5%)下落して1ポンド(約450g)あたり19.11セント(1kgあたり0.42ドル)となり、上白糖は1.6%下落して1トンあたり543.80ドル(1kgあたり0.54ドル)となった(訳者注:上白糖の内外価格差は、海外ー米国0.54ドル/kg、ベトナム0.55ドル/kgに対し日本275円/kg≒1.88ドル/kgで、約3倍である。米トランプ政権の相互関税政策においては、このような内外価格差の存在も、米国製品に対する貿易障壁と見なされる)(翻訳はここまで)。

トランプ関税という暴風雨の前のベトナム
ニューヨーク(ICE)とロンドン(LCE)でコーヒーとカカオの価格が下落したトランプ関税発表の当日2025年4月2日と翌日の4月3日、ベトナム商品取引所(MXV)ではコーヒー価格が二か月ぶりに安値から回復し、カカオ価格は予想外に一か月ぶりの高値を記録して、暴風雨(あらし)の前の好況に沸いた。ベトナムに課されるトランプ関税の暴風雨は冒頭のゲッティー・イメージズの写真の通り46%である。トランプ関税により、ベトナム産コーヒーの対米輸出独・伊に次ぐ第三位、最大の輸出先の一つ:2024年11か月実績で約349,900,000ドル≒5,000億円)、ベトナム産カカオの対米輸出馬・日・仏・蘭・加に続く輸出先;2024年通年実績で約1,691,470ドル≒2.5億円、ハーシーのアジア市場向け製品の生産拠点・工場も馬/マレーシアにある)は、マレーシアの米企業工場向け輸出も、米への直接輸出も減少するか。それとも、ポール・サイ氏の分析どおり米国人消費者は値段が上がったからといってチョコレートを食べなくなるわけではなく、ハーシーなど米企業はベトナム産カカオを買い続けてくれるだろうか。ベトナムは原料カカオ及びチョコレート製品の輸出国であると同時に、チョコレート製品の輸入国であり(2023年実績で米国産約51,600,000ドル、中国産8,910,000ドル、馬/マレーシア産8,460,000ドル、独/ドイツ産5,320,000ドル、新/シンガポール産3,860,000ドル)、原料カカオの対米輸出額の二十倍以上の米国産チョコレート製品を輸入している(マレーシア産米企業製品を含めば二十五倍近い)。トランプ関税減免に向けた米越交渉の余地はある。とはいえ、トランプ関税とカカオ価格の高どまりの結合により、以前にもまして、ベトナムなどのカカオ生産国に、代替チョコレートとの競争や、「100gあたりの豆数が110個、発酵豆比率が85%以上」のような注文の多い欧州市場への過度な依存などのリスクが重くのしかかっている。以上。

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2023年、越/ベトナムのチョコレート輸出先一位は日本(2,970,000ドル≒4億円)、輸入元一位は米国(41,800,000ドル≒60億円)。
The Observatory of Economic Complexity
The world's leading data visualization tool for international trade data.
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2024年の越→米向けカカオ関連製品輸出総額、1,691,470ドル(≒2億4500万円)。ベトナムのカカオ開発には2010年以来米国の世界カカオ基金(ホーチミンシティー・ノンラム大学カカオ実証センター支援)、カーギル(バリア・ブンタウ省サバン・カカオ技術移転センター支援)、USAID(中部高原カカオ農家支援)などの巨大な貢献があり、越国内で普及・使用されているファム・ホン・ドゥク・フオク博士(范鴻徳福、ホーチミンシティー・ノンラム大学講師、Stonehill 創業者)著のカカオツリー栽培技術書もカーギル・テキストに基づく。トランプ関税(46%)により、ベトナム産カカオの対米輸出は縮小し、米国官民の十五年間の努力は無に帰すか。
United States Imports from Vietnam of Cocoa and cocoa preparations - 2025 Data 2026 Forecast 1995-2024 Historical
United States Imports from Vietnam of Cocoa and cocoa preparations was US.69 Million during 2024, according to the Uni...
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2025.4.03、越/ベトナム商品取引所(MXV)タイグエン(西原=中部高原)四省ロブスタコーヒー価格。ベトナムにおけるロブスタコーヒーの内外価格差は、海外5.4ドル/kgに対し越ダクラク省平均価133,500ドン/kg≒5.2ドル/kgで、ほぼない(国際価格≒越国内価格)。
https://www.vietnam.vn/ja/gia-ca-phe-hom-nay-3-4-2025-trong-nuoc-sac-xanh-tro-lai
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2025.4.03の粗糖(砂糖十一番)の米ニューヨーク(ICE)価格は1 pound あたり19セント(1kgあたり0.42ドル)。https://www.investing.com/commodities/us-sugar-no11
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2025.4.03の上白糖の英ロンドン(LCE)価格は1 ton あたり543.8ドル(1kgあたり0.54ドル)
London Sugar Futures Price Today - Investing.com
Explore real-time London Sugar Futures price data and key metrics crucial for understanding and navigating the London Su...
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日本における上白糖の内外価格差は、海外0.54ドル/kgに対し日本275円/kg≒1.88ドル/kgで、約3倍である。
上白糖1kgの価格推移📈・平均価格(相場) - 物価高騰ランキング W3G
上白糖1kgの価格推移・平均価格(相場)の統計データおよび高騰・値上がりしている理由をまとめています。
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