
2024年3月のポール・サイ氏の主張は以下の通り:
①経済指標の大きな変化により、ハーシーの利益率が圧迫される、
②ハーシーはチョコレートの値段を上げ、利益率を回復させようとする、
③ハーシーのチョコレートの値上げは恒久的になものになり、値下げをしない(米チョコレート業界はある程度寡占化し、米国民においてチョコレートはタバコの次くらいに常習性があり、値段が上がったからといってチョコレートを食べなくなるわけではない)→ハーシーの業績は上がる。
一年前のポール・サイ氏のいう「経済指標の大きな変化」は2023-2024カカオ収穫季の春(2024年春)のカカオ価格の高騰を指す。一年後の2025年4月現在は、これにトランプ関税が加わる。同じ材料を前にしながら、サイ氏(ダイヤモンド「ザイ」)とKessanman氏(東洋経済「ストレイナー」)は、まったく異なる市況予測をしているように見える。ただし、Kessanman氏もまたハーシーが減収を続けながらも黒字を維持していることに留意する。トランプ関税により逆風がさらに強まる中、ハーシーはもちこたえるだろうか。



トランプ関税は世界中の生産農家に深刻な影響をもたらす一方、ハーシーにとっては楽観的な材料を提供する可能性もある。トランプ関税の発表後、高騰が止まった商品に関する報道が複数あり、コーヒーやカカオなどのいわゆるSOFTS(産業作物=軟性商品あるいは先物商品)がこれにあたるからである。以下、英ロイター通信社の今日付記事を訳出する:
先物商品、トランプ関税で需要不安が高まりコーヒー、カカオの価格が下落
SOFTS Coffee and cocoa fall as Trump tariffs spark demand worries
Reuters, 2025年4月4日

トランプ関税発表翌日、世界のコーヒー、カカオ価格が下落または上昇鈍化
4月3日木曜日、世界のコーヒー、カカオ価格が下落し、または上昇が鈍化した。投資家たちは、ドナルド・トランプ米大統領が米国の輸入品に厳しい相互関税を課す動きが、コーヒーとチョコレートの世界最大の消費国における需要に打撃を与えるのではないかと、懸念を示した。

この日のアラビカ・ロブスタ価格比は8.5:5.4。
https://www.vietnam.vn/ja/gia-ca-phe-hom-nay-3-4-2025-trong-nuoc-sac-xanh-tro-lai

4月3日の終値は385.25セント/ポンド(キロ換算で8.5ドル/kg)。







米国は世界最大の砂糖輸入国でもあるため、米トランプ政権の相互関税政策に巻き込まれて、砂糖の価格も下落した。トランプ米大統領は、米国の輸入品すべてに10%の基本関税を課すと述べ、一部の国では最大で50%近くまで引き上げ、投資家たちが数十年にわたる貿易自由化の時代の終焉を懸念する中、世界市場に混乱を引き起こした。ロブスタコーヒーの主要な生産国である越/ベトナムと尼/インドネシアはそれぞれ46%と32%の関税が課され、アラビカコーヒーと砂糖の主要な生産国である伯/ブラジルは10%の関税を課され、カカオの主要な生産国であるコートジボワール(象牙海岸)とガーナ(黄金海岸)はそれぞれ21%と10%の関税が課されることになった。専門家たちは、4月3日木曜日、米国史上-植民地時代以来初のコーヒー輸入関税は、すでに記録的な原料高騰に迫られている輸入業者と焙煎業者の経費と諸困難をさらに増大させるだろうと懸念する。米国はまた欧州連合(EU)、馬/マレーシア、尼/インドネシアからのココアバターやココアパウダーなどのカカオ製品の主要輸入国でもある(訳者注: ハーシーのアジア向け生産拠点・工場は馬/マレーシア)。トランプ大統領はEUからの輸入品に20%、マレーシア製品に24%の関税を課した。インドネシアへの32%の関税は当然ロブスタコーヒーとカカオ製品の両方に適用される。



https://www.exportgenius.in/vietnam-exporters-of-cocoa-beans
勝者はいない(there are no winners)
欧州を拠点とするコーヒー取引業者はいう:
「現時点では(完全な)影響は分からないが、勝者はいない。これは誰にとっても悪いことだ。(輸入品への高額課税は)米国にインフレーション(通貨膨張)を招く一方、他国は米国という巨大市場へのアクセスを失うことになる」。
米ニューヨーク取引所(ICE)のアラビカコーヒー(Coffee C)先物価格は世界価格の基準値(ベンチマーク)とみなされている。4月3日の終わり値は前日より3.6セント(0.9%)安い1ポンド(≒450g)あたり385.25セント(8.5ドル/kg)となった。前日にはすでに3%近く下落していた。ロブスタコーヒーもまた前日に2.5%下落しており、4月3日の終わり値は前日より0.2%安の1トン5,388ドル(5.4ドル/kg)となった。英ロンドン取引所(LCE)のカカオ先物は、前日に5%近く下落しており、1.4%安の1トンあたり6,683英ポンド(8.7ドル/kg)となった。一方、米ニューヨーク取引所(ICE)のカカオ先物は、前日には6%近く上昇していたが、上昇の幅を下げて、3.6%高の1トン9,291ドル(9.3ドル/kg)となった。取引業者たちは、予想以上に厳しいトランプ関税により、投資家たちが債券やgold-金に殺到したため、ニューヨーク取引所(ICE)のカカオ先物はドル安で値上がりしているという。ドル安により、米国外の投資家にとってドル価格のカカオは安くなる。例えば、英ポンドは米ドルに対して上昇し、英ポンド価格のロンドン取引所(LCE)のカカオ先物は英国外の投資家にとってより高価となったために売却が促された。そのほかの先物商品取引に関し、粗糖(砂糖十一番)は0.48セント(2.5%)下落して1ポンド(約450g)あたり19.11セント(1kgあたり0.42ドル)となり、上白糖は1.6%下落して1トンあたり543.80ドル(1kgあたり0.54ドル)となった(訳者注:上白糖の内外価格差は、海外ー米国0.54ドル/kg、ベトナム0.55ドル/kgに対し日本275円/kg≒1.88ドル/kgで、約3倍である。米トランプ政権の相互関税政策においては、このような内外価格差の存在も、米国製品に対する貿易障壁と見なされる)(翻訳はここまで)。
トランプ関税という暴風雨の前のベトナム
ニューヨーク(ICE)とロンドン(LCE)でコーヒーとカカオの価格が下落したトランプ関税発表の当日2025年4月2日と翌日の4月3日、ベトナム商品取引所(MXV)ではコーヒー価格が二か月ぶりに安値から回復し、カカオ価格は予想外に一か月ぶりの高値を記録して、暴風雨(あらし)の前の好況に沸いた。ベトナムに課されるトランプ関税の暴風雨は冒頭のゲッティー・イメージズの写真の通り46%である。トランプ関税により、ベトナム産コーヒーの対米輸出(独・伊に次ぐ第三位、最大の輸出先の一つ:2024年11か月実績で約349,900,000ドル≒5,000億円)、ベトナム産カカオの対米輸出(馬・日・仏・蘭・加に続く輸出先;2024年通年実績で約1,691,470ドル≒2.5億円、ハーシーのアジア市場向け製品の生産拠点・工場も馬/マレーシアにある)は、マレーシアの米企業工場向け輸出も、米への直接輸出も減少するか。それとも、ポール・サイ氏の分析どおり米国人消費者は値段が上がったからといってチョコレートを食べなくなるわけではなく、ハーシーなど米企業はベトナム産カカオを買い続けてくれるだろうか。ベトナムは原料カカオ及びチョコレート製品の輸出国であると同時に、チョコレート製品の輸入国であり(2023年実績で米国産約51,600,000ドル、中国産8,910,000ドル、馬/マレーシア産8,460,000ドル、独/ドイツ産5,320,000ドル、新/シンガポール産3,860,000ドル)、原料カカオの対米輸出額の二十倍以上の米国産チョコレート製品を輸入している(マレーシア産米企業製品を含めば二十五倍近い)。トランプ関税減免に向けた米越交渉の余地はある。とはいえ、トランプ関税とカカオ価格の高どまりの結合により、以前にもまして、ベトナムなどのカカオ生産国に、代替チョコレートとの競争や、「100gあたりの豆数が110個、発酵豆比率が85%以上」のような注文の多い欧州市場への過度な依存などのリスクが重くのしかかっている。以上。




https://www.vietnam.vn/ja/gia-ca-phe-hom-nay-3-4-2025-trong-nuoc-sac-xanh-tro-lai




