ベトナムが即時通信アプリ Telegram への接続を遮断へ。その理由とは?

インドネシアは容認したがベトナムは遮断(ブロック)へ:世界中で使用される即時通信アプリ「Telegram」の問題点

越南頭頓報:シーポイント・ベトナム・ブンタウ情報
ダークウェブと Telegram(テレグラム)
2023年3月29日、東京・西新宿に本部を置く SOMPO リスクマネジメント株式会社が運営するサイバーセキュリティ(網路安全)に関する情報サイト「sompocybersecurity.com」に、「サイバー犯罪の中心がダークウェブから Telegram へ移行中」と題する記事が掲載された。ダークウェブは「たまねぎの皮」方式で暗号化され、秘匿性を高めたウェブサイトの総称であり、2010年にピューリッツァー賞)を受けた ProPublica のような言論の自由を守ることを目指すサイトも含まれるが、多くはサイバー犯罪の温床になり、取り締まりを受けるようになった。そこで、2013年ごろ露/ロシアで開発された跨平台(クロス・プラッアプリケーショントフォーム)型の即時通信ソフトウエア・アプリケーション「Telegram」(テレグラム:いまは英/イギリス領ヴァージン諸島に本部を置く)へ、2023年ごろからサイバー犯罪者たちが移行し始めたと考えられる。SOMPO の警告から約一年半後の2024年8月26日、英ロイター通信社が「Telegram 創業社長の仏/フランスにおける逮捕」を報道。以前からすでに Telegram 開発国である露/ロシアが Telegram の利用を禁止しており(2018年)、2024年には泰/タイも禁止、英/イギリスや西/スペインも Telegram をテロ活動連絡ツールと見なして監視を続けている。シンガポール・ラッフルズプレイスに本部を置くサイバーセキュリティ―調査・諮問企業サイファーマ報告(Cyfirma, 2025.2.28)は、越/ベトナムとは思想上「味方」であるはずの中、露、北朝鮮の三か国は、ベトナムが受けるサイバー攻撃(含む産業スパイ)の割合における三大懸念先であるとする(中国33.33%、ロシア33.33%、北朝鮮14.29%)。2017年以来、こうした状況を受け、越/ベトナムは、通信技術将校グエン・チョン・ギア(阮仲義)氏(いま人民軍上級中将、党中央宣教委員長)の指揮下、サイバー部隊フォース47(第四十七力量)を組織し、また2018年にはベトナム・サイバーセキュリティ法(越南網安寧律)を制定して全方位警戒態勢を構築し、党・政府にとっての脅威であると共に、ベトナムにとって虎の子といえる投資家たちの安全・円滑な経済活動を脅かすサイバー犯罪の摘発と予防に乗り出している。2025年6月2日、米/アメリカ・ワシントンDCに本部を置く外交専門誌「ザ・ディプロマット」オンラインに、「不法の徒による利用(悪用)」を理由とする、ベトナムにおける Telegram の利用禁止(ベトナム共産党ホーチミンシティー党部機関紙華文版「西貢解放日報」2025.5.24など報道)に関する、豪州国立ニューサウスウェールズ大学キャンベラ校(豪州国防大学を併設する)の研究員ヴー・ラム氏の寄稿文が掲載された。以下、訳出する:

ベトナムが Telegram への接続を遮断へ。その理由とは?

Why Is Vietnam Blocking Access to Telegram?

The Diplomat, 2025年6月2日、著者:ヴー・ラム(武林)

ベトナムが Telegram への接続を遮断へ
越/ベトナムの党・政府(ハノイ)は、暗号化された即時通信アプリケーション(アプリ)が犯罪行為を助長していると主張しているが、そこにはより深い考慮が働いている可能性がある。ベトナム政府は最近、全世界的に人気の暗号化メッセージング・プラットフォーム(情報交換平台)アプリケーションである Telegram への接続を遮断する計画を発表した。ベトナム情報通信省(MIC)は2025年5月21日付の指示において、越国内のインターネット・サーヴィス・プロバイダ(互連網役務供給者)に対し、2025年6月2日までに Telegram を遮断するよう命じた。2024年時点で1180万人を超えるベトナムの Telegram アプリ・ユーザー数は(訳者注:インドネシアと並び)世界最大級のユーザーベース(利用者規模)を誇る。そのため、アプリへの接続制限の決定は(利用者に)大きな影響を及ぼす恐れがある。禁止の公式根拠は、不法の徒に悪用されている(プラットフォームが違法行為に加担させられている)疑いがあることだ。情報通信省は、ベトナムで活動している約一万の Telegram チャンネルとグループの大部分、約70%を詐欺、麻薬密売、テロ活動の疑いと関連していると主張する。公安省はまた、反政府勢力が反政府文書の配布に Telegram を利用していると主張する。ベトナムが Telegram を禁止した理由は、より広範な規制の傾向とも一致している。2018年(訳者注:ベトナム・サイバーセキュリティ法制定)以降、ベトナムはオンライン・コンテンツ(直線内容)と外国のテクノロジープラットフォーム(技術平台)に対する規制をますます強化してきた。主な例としては、メタ(Meta)とグーグル(Google)に対して要請した高圧的なモデレーション要件や、ティックトック(TikTok)に対する定期的な制限の警告、そしてすべてのソーシャルメディア(社会伝通方便=社会媒体)利用者の身元確認を義務付ける2024年政令第147号(インターネット役務及びオンライン情報の管理、提供、利用に関する政令)などが挙げられる。2018年のベトナム・サイバーセキュリティ法は、こうした傾向の多くを正式に規定し、外国のプラットフォームに対し、データを越国内のデータセンター(預料中心=資料中心)に保存し、当局の要請に応じて情報を提供することを義務付けた。Telegram の禁止は、こうした規制の傾向の延長線上にあるものの、ベトナム当局が先制的かつ一方的に行動する意欲を強めていることも示唆する。2020年のネットワーク速度低下を受けて(Meta の)Facebook が規制を強化したように、政府が大手の情報技術(IT)企業と密室で交渉したり、秘密裏に戦術を駆使したりした過去の事例とは異なり、Telegram のより分散化され不透明な構造もまた、規制当局にその全面禁止措置を講じる決意を与えた。

各国・地域で進む Telegram への規制
なお、英/イギリスや西/スぺインなど他の管轄区域でも同様に規制・警戒措置が取られており、越国内媒体の報道ではそれが今回の措置の正当性として挙げられている。例えば英国では Telegram が暴力的なコンテンツ(内容)を拡散する極右過激派チャンネルのネットワークである「Terrorgram」を可能にしているとして厳しい監視を受けている。2024年4月、英国政府はTerrorgram 集団を正式にテロ組織に指定し、同国のオンライン安全法は英国の通信規制当局である「Ofcom」(Office of Communications=英国通信管理局、英国情報通信庁)に、プラットフォームに対して違法コンテンツの削除を要求する権限を与えている。米/アメリカもまた2025年初頭に Terrorgram とその指導者を国際テロリストに指定し、豪/オーストラリアもすぐにこれに続き、テロ資金対策制裁を課した。同様に西/スペインは、アプリが海賊版メディアコンテンツ(著作権違反の媒体内容)をホストしているとの苦情を受けて、2024年初頭に Telegramを一時的に停止したが、この停止措置は裁判所によってまもなく撤回された(訳者注:インドネシアでも2025年2月に Telegram への規制が撤回され接続が容認された)。

ベトナムの Telegram 全面禁止措置への決意を後押ししたもの
しかし、越/ベトナムの禁止措置は重要な点で異なっている。英・西では(Telegram という)プラットフォーム(平台)の個々の要素を標的とした具体的な法的手続きが用いられたが、越政府(ハノイ)は英・西のように法手続きをひとつひとつ行うのではなく、包括的な予防的禁止措置を講じた。Telegram はこれまで、すべての法的要請に迅速に対応したと主張しており、今回の越政府の禁止措置には「驚いた」としている。このように、ベトナムのデジタルガバナンス(数字統治)への取り組みは、やや不透明で行き過ぎた恐れがあるものの、政府の懸念をいちがいに否定(dismiss)するのも不正確である(be inaccurate to…)。Telegram は他の暗号化プラットフォームと同様に、合法的なコミュニケーション(意思疎通、情報交換)だけでなく、偽情報キャンペーン、過激派の勧誘、詐欺行為、その他の違法行為にも利用されてきた。越国内のオンラインにおけるこの禁止措置に対する世論(opinion)は分かれている。多くの利用者たち、特に技術に精通しプライバシー(私生活、個人秘密)を重視する利用者たちは、この禁止措置を批判している。一方で、政府の決定を支持し、Telegram が違法コンテンツを管理できていないことが公共の秩序と国家安全保障に対する真の脅威となっていると主張する人々もいる。

批判を受けても規制せざるを得ない党-国家の事情
しかし、Telegram を完全に禁止しても、他の暗号化プラットフォームへの移行を阻止できる可能性は低い。現在の状況下では、Telegram の禁止は、(越国内で進行中の)指導部交代や党大会の準備といった重要な政治的節目を前に、混乱を引き起こすような反対意見を制御する狙いもあるかもしれない。この措置(the move)のタイミング(2025年5~6月)は、トー・ラム(蘇林)党書記長の下で反汚職捜査と機構再編・大合併への取り組みが強化されている時期と重なっており、情報の適正管理(information control)が依然としてベトナムの「党-国家」(party-state)の核心的関心事項(the core concern of the…)であることを示唆する。以上。

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